後藤和智事務所OffLine サークルブログ

同人サークル「後藤和智事務所OffLine」のサークル情報に関するブログです。旧ブログはこちら。> http://ameblo.jp/kazutomogoto/

5月14日はこいしの日【テキストマイニング】

 
この論考は「東方Project」の二次創作を兼ねています。登場人物の口調や性格などが原作と異なる可能性がありますのでご注意ください。

 

 古明地こいし(以下、こいし)コミティア例大祭お疲れ様でしたー!そして今日は5月14日、こいしの日だよ!みんながこいしのことをお祝いしてくれる日なんだよ!

 

 古明地さとり(以下、さとり):「5月14日」が「514」で「こいし」というふうに読めるから、主にpixiv上で有志が「こいしの日」にしてお祝いしたのが始まりのようね。今年もいろいろな人がこいしのイラストを上げているわ。

 

 こいし:でも、この記事の書き手さんって、イラストとか小説とかじゃなくて評論の人でしょ?確か去年は「第12回東方Project人気投票」でのこいしのコメントを分析したけど、今回もそんな企画なの?

 

 さとり:今回は、こいしが登場してから最初の人気投票である「第6回東方シリーズ人気投票」から、最新の2017年に行われた「第13回東方Project人気投票」までのこいしのコメントを分析して、こいしの支持のされ方の変化を見ていくこととするわ。この記事の筆者は、2017年4月2日に行われた「第11回東方名華祭/幻想郷フォーラム2017」で、『東方人気投票コメント統計』という、「第13回東方Project人気投票」のコメントを分析した同人誌を出しているのだけど、そのときの分析がキャラクター横断的な分析だったから、今回はこいしに限定した縦断的な分析を行うことになるわね。

 

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 さとり:分析の対象とした人気投票とコメントの数は次の通りね。特に2015年の人気投票は、霊夢を抑えてこいしが一位になったことから衝撃を受けた人も多いんじゃないかしら。

 

 第6回東方シリーズ人気投票(2009年):433件

 第7回東方シリーズ人気投票(2010年):913件

 第8回東方シリーズ人気投票(2011年):1,315件

 第9回東方シリーズ人気投票(2012年):1,424件

 「第5回東方ニコ童祭」での人気投票(2013年):801件

 第10回東方シリーズ人気投票(2014年):1,363件

 第11回東方Project人気投票(2015年):1,502件

 第12回東方Project人気投票(2015年):1,870件

 第13回東方Project人気投票(2015年):1,372件

 

 さとり:分析にはフリーのテキストマイニングソフト「KH Coder」を使用し、形態素解析にはフリーソフトMeCab」を、辞書は『東方人気投票コメント統計』で使用したものをさらに加工したものを使用しているわ。

 

 こいし:どういう分析をやったの?

 

 さとり:まずは対応分析からね。全体での占有率が20%となる、出現数53以上の自立語137語を分析対象とし、分析を行ったわ。第1主成分と第2主成分のプロットはこんな感じね。

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 こいし:この図を見ると、こいしが初めて投票の対象になった2009年から2012年までと、2013・2014年、2015年以降がそれぞれ固まってる感じになるのかな。

 

 さとり:2013年はこいしが「東方心綺楼」でプレイアブルキャラクターとして登場して、そこから人気が急上昇した年ね。2012年の人気投票で14位だったものが、参考記録ながらもこの年の人気投票で2位になり、2014年に行われた本家での人気投票でも3位になって、それ以降は3位以内に入っているわけだけど、大まかな流れで言うと、2012年までは中位安定期、2013・14年は人気の上昇期、それ以降は高位安定期と言うことができるんじゃないかしら。対応分析の年ごとの得点も見てみましょうか。

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 さとり:見るべき主成分は、累積寄与率が70%程度になる第3主成分までで良さそうね。これを見ると、第1主成分は2012年までマイナスでその後プラスに転じ、第2主成分は2013・14年に大きくマイナスに転じてその後は戻っていく感じ、そして第3主成分は2015年に大きくプラスに、2016年で大きくマイナスになるという変化が見られるわね。

 

 こいし:投票の中身はどういう風に変わったんだろ?

 

  さとり:そのために、まずは対応分析の単語ごとの得点を見てみましょう。

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 さとり:2012年以前と2013年以降を分かつ第1主成分は、まず負の方向に着目すると、こいしと私の初登場の作品である「東方地霊殿」でのこいしが弾幕を放つときのポーズを形容するときに使われる「グリコ」や、その他「弾幕」「帽子」「能力」などといった弾幕や設定に関する言及が多いわね。そして正のほうを見ると、「あざとい」「天使」「かわいい」などといった、こいしのかわいさに関する感情を示す単語が多くなる傾向があるみたいね。

 

 こいし:2013年に発売された心綺楼から、こいしのことをかわいいって見てくれる人が多くなったっていうことなのかな。

 

 さとり:その傾向は、2013年~14年の人気の拡大期に大きくマイナスに転じた第2主成分からも見られるわね。心綺楼やそれを基にした二次創作などでこいしの魅力が周知されたということになるのかしら。2016年に大きく負に転じた第3主成分は、「前回」「世界」「今回」という単語が見られるわね。前回1位になったから、今回も1位にしようというファンの心理が働いたのかしら。

 

 こいし:他に何か支持のされかたの変化を測ってたりするの?

 

 さとり:他の分析結果なども見て、いくつか気になった単語を元にコーディングを作成してみたわ。

 

*こいし
こいし
*かわいい
かわいい
*かわいい以外の評価
惚れる | 萌える | 萌え | あざとい
*愛でる
好き | すき | 天使 | 嫁
*ゲームでの描写
ZUN+絵 | ポーズ | 仕草 | しぐさ
弾幕
弾幕 | スペル | スペカ
*設定
設定 | 心+読む | 目+閉ざす | 目+閉じる | 能力
*重い背景
泣ける | 辛い | つらい | 悲しい
*容姿
髪 | ZUN+帽 | 帽子 | 服 | スカート
*ペロペロ系
ペロペロ | ペロッ | ちゅっちゅ
*こしこし
こしこし
*無意識だから仕方ない
seq(無意識-仕方)
*さとり
さとり | さとりん | さとこい | 古明地+姉妹
*フランドール
フラン | フランドール | こいフラ
*こころ
こころ | こいここ

 

 さとり:これらのコーディングに該当するコメントの数と割合は次の通りよ。

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 こいし:こいしが20位くらいだった2012年までは、弾幕とか設定とかに関する言及が多くて、それ以降は人気が一般化していってる感じになるのかな?

 

 さとり:割合で見るとそんな感じだけど、絶対数を見ると、ただかわいいだけでなく、設定や容姿、または重い背景などについても一定の支持があるように見えるわね。いずれにしても2008年に登場した、東方Projectの歴史で言うとどちらかと言えば後発になるこいしが、なぜここまで人気を得たのかについて、いろいろと参考になるデータが得られたわね。

 

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付録:各年の人気投票の共起ネットワーク(単語:全体で10以上のコメントに使われているもの)

 

第6回(2009年)

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第7回(2010年)

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第8回(2011年)

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第9回(2012年)

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ニコ童祭(2013年)

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第10回(2014年)

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第11回(2015年)

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第12回(2016年)

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第13回(2017年)

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【リリース】後藤和智事務所OffLine 5月6・7日のイベント参加情報+商業新刊告知

【イベント参加情報】

・5月6日 コミティア120@東京ビッグサイト

「V」ブロック22a「後藤和智事務所OffLine」

お品書き

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・5月7日 第14回博麗神社例大祭東京ビッグサイト

「G」ブロック56ab「後藤和智事務所OffLine」

お品書き

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【評論系新刊】

コミティア120」新刊『月刊テキストマイニングレポートVol.1 計量テキスト分析を用いた文芸評論の可能性1:池井戸潤半沢直樹」シリーズ』

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コミティア119」新刊『続・統計学で解き明かす成人の日社説の変遷:計量テキスト分析で読み解く〈若者〉へのまなざし――平成日本若者論史14』

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コミックマーケット91」既刊『間違いだらけの論客選び――2010年代「日本社会論」の計量テキスト分析』

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東方Project系新刊】

「第14回博麗神社例大祭」新刊『鍵山雛の損害保険数学基礎講座』

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「第11回東方名華祭/幻想郷フォーラム2017」新刊『東方人気投票コメント統計――計量テキスト分析で見る「愛され方」の研究』

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メロンブックスhttps://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=211328
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【商業新刊告知】

 2017年6月、イースト・プレスイースト新書)より商業新刊『現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史』(北田暁大氏、栗原裕一郎氏との共著)が刊行されます。

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【コミティア120新刊】月刊テキストマイニングレポートVol.1

【書誌データ】
 書名:月刊テキストマイニングレポートVol.1 計量テキスト分析を用いた文芸評論の可能性1:池井戸潤半沢直樹」シリーズ
 発行日:2017(平成29)年5月6日(コミティア120)
 著者:後藤和智後藤和智事務所OffLine http://www45.atwiki.jp/kazugoto/
 サイズ:A5
 ページ数:20ページ
 価格:即売会…300円
 通販取扱:なし
 国立国会図書館登録情報:納本予定なし
 サンプル:

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 電子書籍Kindle(予定)

 【目次】
 1. はじめに
 2. 『オレたちバブル入行組』
 3. 『オレたち花のバブル組』
 4. 『ロスジェネの逆襲』
 5. 『銀翼のイカロス

 

【例大祭14新刊】鍵山雛の損害保険数学基礎講座

【書誌データ】
 書名:鍵山雛の損害保険数学基礎講座
 発行日:2017(平成29)年5月7日(第14回博麗神社例大祭
 著者:後藤和智後藤和智事務所OffLine http://www45.atwiki.jp/kazugoto/
 表紙:suo(すおーずこーひー https://www.pixiv.net/member.php?id=422596
 サイズ:A5
 ページ数:48ページ
 価格:即売会…800円/書店委託…1,000円(税抜)
 通販取扱:メロンブックス https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=218486
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 国立国会図書館登録情報:納本予定
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 電子書籍メロンブックスDL
 備考:本書は同人サークル「上海アリス幻樂団」の作品「東方Project」シリーズの二次創作作品となります。そのためコミティアなどの二次創作作品の頒布が禁止されている即売会では頒布いたしません。
 登場人物:鍵山雛河城にとり霧雨魔理沙秋穣子


【目次】
0.1 まえがき

第1章 損害保険とは
 1.1 保険とは
 1.2 損害保険とは
 1.3 損害保険の商品
  1.3.1 家計分野
  1.3.2 企業分野
 1.4 商品の詳細
  1.4.1 火災保険
  1.4.2 自動車保険
  1.4.3 傷害保険
  1.4.4 その他

第2章 クレームのモデル
 2.1 はじめに
 2.2 クレームの頻度のモデル
  2.2.1 はじめに
  2.2.2 クレーム頻度のモデル
  2.2.3 クレーム額のモデル
  2.2.4 クレーム総額のモデル

第3章 信頼性理論
 3.1 はじめに
 3.2 有限変動信頼性理論
 3.3 ビュールマン・モデル

第4章 危険理論
 4.1 はじめに
 4.2 サープラス過程
 4.3 短期間での破産確率
 4.4 長期的な破産確率

第5章 保険料算出の基礎
 5.1 はじめに
 5.2 純保険料と営業保険料
 5.3 純保険料法
 5.4 損害率法
 5.5 再保険

第6章 おわりに
 6.1 文献
 6.2 おわりに
 6.3 あとがき

【名華祭11サークルペーパー】『宮台真司interviews』分析【テキストマイニング】

名華祭は3回目の出展となります、後藤和智です。そして「幻想郷フォーラム」第4回開催おめでとうございます。私は第2回(2015年)を除いて毎回出展していますが、2014年の初開催時は、出展申し込みをしつつも東方の「情報・評論」オンリーなんて誰が来るのかと正直思っていましたが、蓋を開けてみれば大盛況という。そして2015年には残念ながら出展できませんましたが、2016年に出展したときには口頭発表部門も追加されて、盛り上がりも増しているという……。まだまだ東方の同人には可能性があると感じました。
さて今回のサークルペーパーは、東方とは関係ないのですが、宮台真司に1994年~2004年に行われたインタビューをまとめた本『宮台真司interviews』の分析を行いたいと思います。私は(それこそ今回の新刊がそうであるように)テキストマイニングにはまっているのですが、テキストマイニングを用いて現代の言論、評論のあり方を明らかにすることを続けていこうと思っているので、今後とも末永いお付き合いをよろしくお願いいたします――というのはさておき、早速分析に入っていきたいと思います(解析に使ったのはカスタマイズしていないMeCabに、「酒鬼薔薇聖斗」「酒鬼薔薇」を強制抽出単語としてKH Coder側で登録)。
宮台真司interviews』には合計64本のインタビューや、他のライターによる聞き書きが収録されていますが(表1)、特に多いのは1998年のものです。1998年というのは、宮台が「脱社会的存在」という概念を言い出す頃のものであり、相次いで報道されていた「理解できない」少年犯罪(実際には統計上では少年による凶悪犯罪は減少傾向にあるか、または増加していても検挙方針の転換で増加しているように見えているだけ)に対する対応・解説に追われていたということが考えられます。もう一つは、宮台自身が主張する転向です。詳しくは宮台の『この世からきれいに消えたい。』(藤井誠二との共著、朝日文庫)を読んで欲しいのですが、1999年か2000年に、宮台の熱心な読者が宮台の言説を真に受けて自殺して、それを契機に宮台が「世直しモード」から「サブカルチャーモード」に言説を転換させたと言われております(というか、宮台が言っています)。

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そのような変化は見られるのでしょうか。ここではクラスター分析と対応分析を用いて見ていきます。クラスター分析を用いて5つのクラスターに分けたところ、1998年まではクラスター1の文章が見られますが、1999年以降はクラスター1がなく、代わりにクラスター4の文章が見られるようになりました。それではそれらのクラスターの中身はなんなのかというと、クラスター1は対応分析で第1,3主成分が負で、第2主成分が正に振れていました。他方、クラスター4は、第2,3主成分が負に振れています。単語の得点を見ると、特に違いが見られた第2主成分においては、正の方向は子育てや酒鬼薔薇聖斗事件、正の方向には政治や運動と名付けることができそうです。

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さらに年カテゴリごとの変化を見ると、1990年代と2000年代で大きく異なっているのは第1主成分で、1990年代は負だったのが2000年代には正になっています。こちらの第1主成分は、メディア規制関係のほか、子育てに関するものが多いですが、正の方向には、「天皇」「大衆」「匂い」などといった宮台社会学で頻繁に使われる単語が多く見られます。

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こう見ると、宮台の言う「世直しモードからサブカルチャーモードへ」という変化とは真逆のものが見えます。実際の宮台の言説は、少なくとも『宮台真司interviews』に収録されているインタビューや聞き書きを分析する限りにおいては、当初は少年犯罪などに対する具体的なものだったのが、「原天皇制」や社会のあり方といった、むしろ抽象的なものに向かっていくという様が見られます。これは私が『間違いだらけの論客選び』という同人誌で指摘した、セラピー的な言説の傾向を、切り離すと言うよりはむしろ獲得していったということです。
また、頻出する単語上位122個(出現数77以上)を多次元尺度構成法によって6つのカテゴリーに分類し、それぞれの単語が使われている文の割合を集計したのが表7,8になります。集計からわかるのは、1990代はカテゴリー2,4の単語が多く、2000年代はカテゴリー3の単語が多いということです。教育やジェンダーに関する基本的な単語が並ぶカテゴリー2,4に対して、カテゴリー3は宮台的な「社会システム理論」において使われる単語になっています。

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このことから、宮台の言う1990年代から2000年代における言説の転換は事実ですが、それは「世直しからサブカルチャーへ」というよりは、より抽象的な、そしてより一般の社会科学からはかけ離れた方向への変化と言うことができるかと思います。まあそういう社会学こそがサブカルチャーであると言い切ってしまえばそれまでなのですが、これは自分の言説が理解できる層へのアプローチの変化であり、要するに自閉であり、そしてセラピー的側面の獲得でしかないわけで、社会「科学」とは真逆の方向に向かっており、これは非常の危うい変化であると言えます。
宮台は2014年の都知事選のときに過激な物言いで反原発左翼の支持を取り付けようとして失敗し、最近はネット上の反フェミニズム言説に過激な物言いで支持を取り付けようとしているように見えますが、いずれにせよ2005年の段階で既に自閉し、セラピー的になってしまった宮台に期待するのは危険です。幸い、社会学の方面では宮台社会学に対する見直しが進んでいるようですが、「批評」方面ではまだその影響力が衰えたとは言えない状況です。「批評」の側が早く宮台的なものから脱却しないと、「批評」が科学を志向することは不可能ではないかと思います。

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【仙台コミケ235のサークルペーパーになるはずだったもの】中原昌也ほか『嫌オタク流』分析【テキストマイニング】

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 こちらの記事は、2017年2月26日に秋葉原で行われた、「秋葉原」をテーマにした同人誌の即売会「秋コレ」のサークルペーパーとして書いたものですが、このときに分析する候補として挙っていたのは、実際に分析した『リアルのゆくえ』(大塚英志東浩紀:著、講談社現代新書、2008年)のほか、中原昌也氏らの『嫌オタク流』(太田出版、2006年)もありました。この本は、オタクないしオタク文化を嫌悪するサイドとしての中原氏及び高橋ヨシキ氏が、オタク擁護(?)系のライターの海猫沢めろん氏(第1部)と更科修一郎氏(第2部)を迎えて、オタクの現状を分析、批判するというものです。

 ――と「分析、批判」と書きましたが、はっきり言って同書で繰り広げられているのはほとんど罵詈雑言であり、しかも当時流行していた本田透氏などによる無理のあるオタク擁護論(後にこの擁護論がいまの反フェミニズムの一端を担っているとも考えられるのですがその分析は別の機会に)で語られたオタク像をそのまま受けて批判しているという、読んでいて悲しくなるものでした。そしてそこで繰り広げられている内容の酷さに、分析する気をなくしてしまいました。そのため、同書の分析は当初3月12日に開催された「仙台コミケ235」のサークルペーパーになる予定でしたが、結局出すことはできませんでした。

 ただある程度分析を進めていたので、せっかくだからここで分析結果を公表してみようと思いました。当初の分析にはないような分析も行いました。その前に話者の設定ですが、同書はこのような対談形式で進行されます。第1部ならこんな感じです。

高橋 本当に萌えって敷居が低いの?
海猫沢 低いですよ。
高橋 でも、俺は入っていけない……。

海猫沢 敷居があるとしたら、パッと見の絵の問題ですね。
中原 僕はそこでダメですね。
海猫沢 萌えには理屈がないんですよ。絵を見た瞬間の生理的感覚で良し悪しを判断するから、それにノレない人はダメかもしれない。
高橋 でも、記号性みたいなものがすごく高い絵だから、そのコードが分からないと理解できないわけでしょ?

 ここから段落ごとに話者を設定するためには、KH Coderの強制抽出単語に、「中原 」「高橋 」「海猫沢 」「更科 」のように、名前の後に全角スペースを入れたものを設定して、そこから誰の話なのかを導き出すことができます。

 それでは分析に入ります。まず、全体の流れを把握するために、対応分析を行い単語と話者を布置します(使用した単語は、全体での占有率が20%になる、出現数6以上の512自立語。ただしOCRソフトの読み取りミスが修正されていないことなどによって実際とは若干異なる可能性がある。また、辞書はカスタマイズしていないMeCab)。

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 予備分析としてこの図を見ると、「嫌オタク」サイドの中原・高橋氏は概ね近い位置にいると考えられます。それでは全体の流れではどうなっているでしょうか。ここでは、小見出し(第1部:26個、第2部:22個)を基準に、各部を第1四分、第2四分、第3四分、第4四分に分けてみます。そして四分と単語を布置した結果がこのような感じになります。

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 全体として第1象限(単語の布置を見てみるに、東浩紀的な萌え文化解釈をベースに話を進めていると見られる)から縦軸負方向(岡田斗司夫に関する話?)に向かっている印象を受けます(ただ第2部第3四分については、ガンダムの話など脇道に逸れている)。ただ第2主成分までの累積寄与率が35%程度とあまり高くないので、もう少し下の主成分の流れも見てみることにします。第4主成分までにおける得点の推移と、単語の得点は次のようになっています。

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 第1主成分は、正方向が「萌え=ポルノ」という解釈、第2主成分やオタク文化そのものに関する軸と言うことができ、この主成分は全体としてマイナスの方向に向かっています。第2主成分は、正方向が恐らく東浩紀的な萌えの解釈に関するもの、負方向はオタク業界話みたいな感じになるでしょうか。この主成分は右往左往している感じです。第3主成分は正方向がゲーム関係になるでしょうか? 負方向はオタク文化にかんするものということになるでしょう。これも若干右往左往しています。そして第4主成分は正方向はサブカルチャー的なもの、負方向は感情に関する解釈ということになるでしょうか。こちらはほぼ一貫して正の方向に向かっています。

 ただ同書の分析で明らかにしたかったのは、話者4人(各部では3人ですが)の立ち位置の違いです。まず対応分析によって見てみます。四分と話者を対応分析によって布置した結果が次のものです。

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 とりあえず、第4主成分まではこんな感じに解釈することができるでしょうか?

 第1主成分:正…サブカルチャー 負:セクシュアリティ

 第2主成分:正…萌え文化批判? 負:話者自身の感情

 第3主成分:正…萌え文化のポルノ的解釈 負:話者自身の感情

 第4主成分:正…オタク文化 負:業界話

  それぞれの主成分の流れを折れ線グラフに表してみます。

第1主成分…

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第2主成分…

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第3主成分…

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第4主成分…

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 これを見ると、第1主成分は更科氏、第2主成分は海猫沢氏、第3主成分は高橋氏を他と分かつ主成分として見ることができそうです。こうして見ると、あるところでこの4者の立ち位置は違うと言うことになりそうです。ちなみに第4主成分は4者がほぼ重なっていますが、第8主成分までだいたいこんな感じでした。

 次に、単語の使われ方によって差が生じているかを見てみます。分析する単語は、出現数23以上の単語102単語で、これを多次元尺度構成法によってプロットし5つのカテゴリーに分けます。

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f:id:kgotolibrary:20170319231312j:plain

 これを元に次のようなコーディングを作成しました。

*カテゴリー1
オタク | 自分 | マンガ | アニメ | 映画 | 世界 | 話 | 好き | 嫌 | 笑 | 中原 | 日本 | 今 | 昔 | 思う | 言う | 分かる | 見る | 行く | 買う | 観る | 面白い | 多い | 全然 | する | ある | なる | いる | やる | できる | しれる | ない | そう | 人
*カテゴリー2
エロ | ポルノ | 時代 | 女の子 | キャラクター | 部分 | ヤンキー | 迫害 | ピュア | 全部 | 萌える | 出る | 違う | 読む | 殺す | 描く | いう | まあ | よく | もっと | 男 | 本
*カテゴリー3
人間 | モテ | 現実 | オナニー | セックス | 差別 | ダメ | 問題 | 考える | 書く | 本当に | つて | いい | すごい | どう | まったく | なんで | 女
*カテゴリー4
偏差 | 感じ | 社会 | エロゲー | 業界 | バカ | 趣味 | 普通 | 絶対 | 持つ | 出来る | 入る | あと | なぜ | 逆 | 国
*カテゴリー5
ガン | ダム | 文化 | 本当 | 興味 | 作品 | 一番 | 知る | 作る | 悪い | 良い | やっぱり | そんなに

  まず話者ごとの違いを見てみます。

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 これについては、違いが割とはっきりと現れたかと思います。海猫沢・更科氏はカテゴリー2,4の、中原・高橋氏はカテゴリー3の単語を多く使っている傾向にあります。これを見ると、中原・高橋氏の「嫌オタク」の理由は、主にセクシュアリティに関するところにあるのではないかと思われます。

 また四分ごとの使われ方の変遷も見てみましょう。

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 こちらではあまり特徴的な変化が現れなかった感じです。

 以上から、中原・高橋氏の「嫌オタク流」とは、主にセクシュアリティ方面の違和感とみなしていいかと思います。しかし読んでいて感じたのは、中原・高橋氏も海猫沢・更科氏も、東浩紀本田透などのオタク論をベースにオタクを物語っており、その正しさについては検証されないまま所与のものとして扱われている点です。どちらにしてもその立論の証拠は乏しく、無理のある分析、擁護によって歪められている感じです。とはいえこの2者のオタク論は、当時(それこそ「はてな」みたいな)オタク論壇でもてはやされていた経緯があるので、悩ましく感じてしまいます。

 

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【名華祭11/幻想郷フォーラム2017新刊】東方人気投票コメント統計――計量テキスト分析で見る「愛され方」の研究

【書誌データ】
 書名:東方人気投票コメント統計――計量テキスト分析で見る「愛され方」の研究
 発行日:2017(平成29)年4月2日(第11回東方名華祭/幻想郷フォーラム2017)
 著者:後藤和智後藤和智事務所OffLine http://www45.atwiki.jp/kazugoto/
 表紙:にむ(むにむそう http://munimusou.web.fc2.com/
 サイズ:A5
 ページ数:56ページ
 価格:即売会…800円/書店委託…1,000円(税抜)
 通販取扱:メロンブックス https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=211328
   とらのあな http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/51/98/040030519871.html
 国立国会図書館登録情報:納本予定
 サンプル:

www.pixiv.net


 電子書籍メロンブックスDL
 備考:本書は同人サークル「上海アリス幻樂団」の作品「東方Project」シリーズの二次創作作品となります。そのためコミティアなどの二次創作作品の頒布が禁止されている即売会では頒布いたしません。
 登場人物:霧雨魔理沙アリス・マーガトロイドパチュリー・ノーレッジ稗田阿求、本居小鈴

 

【目次】
はじめに
第1章 分析手法
第2章 関連語検索によるキャラクターごとの傾向
 2.1 はじめに
 2.2 関連語検索を用いた各登場人物の傾向の検討
  2.2.1 1~25位
  2.2.2 26~50位
  2.2.3 51~75位
  2.2.4 76~100位
 2.3 登場人物のクラスタリングと対応分析
第3章 単語から見た傾向
 3.1 はじめに
 3.2 多次元尺度構成法による上位110単語の分類
 3.3 コーディングを用いた単語の集計
あとがき