後藤和智事務所OffLine サークルブログ

同人サークル「後藤和智事務所OffLine」のサークル情報に関するブログです。旧ブログはこちら。> http://ameblo.jp/kazutomogoto/

【新春テキストマイニング初め】イケダハヤトは消耗しているのか?

あけましておめテキストマイニングございます。本年も後藤和智事務所OffLineをよろしくお願いいたします。昨年はあまりテキストマイニングができず、東方の書き下ろし同人誌もあまりかけませんでしたが、2017年はもっと積極的に動いていくつもりです。よろしくお願いいたします。

さて、2017年初のテキストマイニングは、冬コミの評論新刊『間違いだらけの論客選び』でも採り上げた論客、イケダハヤトについて採り上げることとします。というのも、昨年、イケダはホメオパシーを好意的に採り上げたことでネット上で話題になりました。ブログ時代、そして2012年に出版され、『間違いだらけの~』や2014年に書いた『「新しい生き方」は誰のため?』(総集編『「働き方」と「生き方」を問う:〈若者〉をめぐる言説の現在と計量分析――平成日本若者論史Special3』(後藤和智事務所OffLine、2015年)に収録)でも採り上げた『年収150万円で僕らは自由に生きていく』(星海社新書、2012年)以降、若い世代として社会の常識や通念に挑発的に斬り込んでいくというスタイルを保ち、のちに東京を離れて高知に移住してからは、東京で主にサラリーマンとして生きている人たちを挑発していくことで話題になりました。

イケダとホメオパシーの関係については下記の記事がよくまとまっています。

hagex.hatenadiary.jp

 

interdisciplinary.hateblo.jp

これが話題になっていたので、私も俗流若者論専用の書庫の奥底からイケダの著書『まだ東京で消耗してるの?』(幻冬舎新書、2016年)を引きずり出して読んだのですが、通読した感想は、どうも「~ですよ。」「~(し)ますよ。」という表現が目立つということです。ここまで自分を必死に売り込んでいても、言っているのは自分が「これから凄いことをやる」という主張(悪く言えば妄想、夢想)だけで、その社会的なインパクトなどについては主張が薄い気がしました。今までのいくつかの著書で見られた社会的ビジョンなどのようなものは捨て去られてしまった印象を受けます。

それだけではありません。私がイケダという”論客”に対して根本的な疑念を持つようになったのは、次のようなLINEスタンプを売っていることを知ったからです。

store.line.me

 

 

これを見ると、イケダは最早言論の中身ではなく「キャラ」で売っているとしか思えません。言説の科学性や実現性を重視する論客というのは、最早過去のものなのか――。イケダのような〈若手論客〉を見ていると、そのような印象を受けます(だからこそ『間違いだらけの~』を書いたのですが)。

※私の『まだ東京で~』の感想はこちら。

 

 

 

 

さて、新春テキストマイニング初めは、このイケダについて分析してみたいと思います(当初の予定では、柳美里『仮面の国』を検証しようと思っていたのですが、これは後にとっておきます)。分析する書籍は、2012年に刊行された『年収150万円で~』(以下、『年収』)と、2014年の『なぜ僕は「炎上」を恐れないのか』(光文社新書、2014年。以下『炎上』)、そして2016年の『まだ東京で~』(以下『消耗』)です。いずれも新書であり、また刊行時期がちょうど2年おきになっているので、イケダという論客の変遷を追っていく上ではいいセレクションかと思います。

まず各書籍のプロフィールを示す前に、文章表現を集計してみます。RMeCabでN-gramを集計した後、代表的な文末表現についてコーディングを作成し集計してみました(書籍は全て敬体で書かれている)。

# 文末
*「~(して)います。」
'ています。'
*「~(して)しまいます。」
'てしまいます。'
*「~と思います。」
'と思います。'
*「~考えています。」
'考えています。'
*「~できます。」
'できます。'
*「~のです。」
'のです。'
*「~いました。」
'いました。'
*「~なりました。」
'なりました。'
*「~(して)きました。」
'てきました。'
*「~でしょうか。」
'でしょうか。' | 'でしょうか?'
*「~(して)ください。」
'てください。'
*「~でしょう。」
'でしょう。'
*「~しましょう。」
'ましょう。'
*「~ですよ。」「~ますよ。」
'すよ。'
*「~ません。」
'ません。'

これを集計した結果が次の通りです。
表1

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図1

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集計結果を見ると、『年収』『炎上』では、「~のです。」「~でしょう。」が高かったのに対し、『消耗』では、私の読みの通り「~ですよ。」「~ますよ。」が圧倒的に多くなっています(特に『年収』では1回も使われていなかった)。ここからも、イケダにおける言説が、『消耗』では「自分がどんなことができるか」「自分が何をやっているのか」ということを主張することがメインになっていることが見受けられます。

さて、本格的な分析に入っていきましょう。まず、書籍のプロフィールと、対応分析による単語のプロットを示します。対応分析には、占有率が20%となるような自立語である、出現数18以上の自立語を使っています。

表2

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図2

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今回は、多次元尺度構成法を用いて、単語をカテゴライズしてみました。用いた単語は上位100単語に近い、出現数58以上の103単語です。この単語を5つのクラスターに分けてみます。集計基準は段落としました。

図3

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ここから、単語を下記の5カテゴリーに分けました。

表3

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集計結果は下記の通りです。

表4

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図4

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カテゴリー1については、集計結果でおしなべて高いので、敢えて意味をつける必要はないだろうと思い意味は「なし」としております。それ以外の単語を見てみると、カテゴリー2は『年収』で高く、カテゴリー3,4は『年収』と『炎上』で、そしてカテゴリー5は『消耗』がそれぞれ使用率が高くなっています。カテゴリー3,4については、イケダにとってブログが社会とつながり、そして自分の考えを発信する手段「であった」ことを考えれば、『年収』や『炎上』では使用率が高いということはわかります。

しかしそのイケダの論客としての特徴もしくは特殊性を、『消耗』ではかなぐり捨ててしまって、逆にパーソナルな記述が急増してしまっていると言えます。文末表現も含めて、イケダの関心が社会から自分に向かっているのは、ひたすら自分を虚飾しなければ論客としてやっていけなくなったということなのでしょうか(それこそ前述のLINEスタンプなども含めて)。

だとすれば、これはイケダと我が国の言論メディア双方にとっての危機だと思います。まずイケダに関しては、ただ「若さ」、もう少し言えば「ブログ世代としての特殊性」以外になにも持つものがないということです。『「新しい生き方」は誰のため?』では、最近の論客は、「働き方」と「生き方」の2つを書いてしまうと、もう論客としてネタ切れになってしまい、後が続かなくなるということを書きましたが(本稿で分析した書籍だと、『年収』が働き方、『炎上』が生き方ということになる)、少なくともイケダについてはその予感が当たってしまったとしか言えません。

そして出版側の問題として、このような中身がなく、ただかつて「若者代表」のひとりとしてもてはやされた論客が、自分を虚飾するだけの文章が売り出されてしまうということです。イケダが『消耗』を出したという事実は、我が国の言論が「キャラ」に支配されていることの一端を示しているということです。2017年は、1990年代終わり~2000年代の劣化言説の時代の解明と共に、このような「キャラ」化した言論、論壇の現状についても、テキストマイニングを用いて斬り込んでいこうと思います。

※イケダも登場する冬コミ評論新刊、現在メロンブックスCOMIC ZINにて委託中です。

kazugoto.hatenablog.com

www.melonbooks.co.jp

COMIC ZIN 通信販売/商品詳細 間違いだらけの論客選び――2010年代「日本社会論」の計量テキスト分析

『年収』の共起ネットワーク

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『炎上』の共起ネットワーク

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『消耗』の共起ネットワーク

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付録1

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付録2

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