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後藤和智事務所OffLine サークルブログ

同人サークル「後藤和智事務所OffLine」のサークル情報に関するブログです。旧ブログはこちら。> http://ameblo.jp/kazutomogoto/

【仙台コミケ235のサークルペーパーになるはずだったもの】中原昌也ほか『嫌オタク流』分析【テキストマイニング】

kazugoto.hatenablog.com

 こちらの記事は、2017年2月26日に秋葉原で行われた、「秋葉原」をテーマにした同人誌の即売会「秋コレ」のサークルペーパーとして書いたものですが、このときに分析する候補として挙っていたのは、実際に分析した『リアルのゆくえ』(大塚英志東浩紀:著、講談社現代新書、2008年)のほか、中原昌也氏らの『嫌オタク流』(太田出版、2006年)もありました。この本は、オタクないしオタク文化を嫌悪するサイドとしての中原氏及び高橋ヨシキ氏が、オタク擁護(?)系のライターの海猫沢めろん氏(第1部)と更科修一郎氏(第2部)を迎えて、オタクの現状を分析、批判するというものです。

 ――と「分析、批判」と書きましたが、はっきり言って同書で繰り広げられているのはほとんど罵詈雑言であり、しかも当時流行していた本田透氏などによる無理のあるオタク擁護論(後にこの擁護論がいまの反フェミニズムの一端を担っているとも考えられるのですがその分析は別の機会に)で語られたオタク像をそのまま受けて批判しているという、読んでいて悲しくなるものでした。そしてそこで繰り広げられている内容の酷さに、分析する気をなくしてしまいました。そのため、同書の分析は当初3月12日に開催された「仙台コミケ235」のサークルペーパーになる予定でしたが、結局出すことはできませんでした。

 ただある程度分析を進めていたので、せっかくだからここで分析結果を公表してみようと思いました。当初の分析にはないような分析も行いました。その前に話者の設定ですが、同書はこのような対談形式で進行されます。第1部ならこんな感じです。

高橋 本当に萌えって敷居が低いの?
海猫沢 低いですよ。
高橋 でも、俺は入っていけない……。

海猫沢 敷居があるとしたら、パッと見の絵の問題ですね。
中原 僕はそこでダメですね。
海猫沢 萌えには理屈がないんですよ。絵を見た瞬間の生理的感覚で良し悪しを判断するから、それにノレない人はダメかもしれない。
高橋 でも、記号性みたいなものがすごく高い絵だから、そのコードが分からないと理解できないわけでしょ?

 ここから段落ごとに話者を設定するためには、KH Coderの強制抽出単語に、「中原 」「高橋 」「海猫沢 」「更科 」のように、名前の後に全角スペースを入れたものを設定して、そこから誰の話なのかを導き出すことができます。

 それでは分析に入ります。まず、全体の流れを把握するために、対応分析を行い単語と話者を布置します(使用した単語は、全体での占有率が20%になる、出現数6以上の512自立語。ただしOCRソフトの読み取りミスが修正されていないことなどによって実際とは若干異なる可能性がある。また、辞書はカスタマイズしていないMeCab)。

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 予備分析としてこの図を見ると、「嫌オタク」サイドの中原・高橋氏は概ね近い位置にいると考えられます。それでは全体の流れではどうなっているでしょうか。ここでは、小見出し(第1部:26個、第2部:22個)を基準に、各部を第1四分、第2四分、第3四分、第4四分に分けてみます。そして四分と単語を布置した結果がこのような感じになります。

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 全体として第1象限(単語の布置を見てみるに、東浩紀的な萌え文化解釈をベースに話を進めていると見られる)から縦軸負方向(岡田斗司夫に関する話?)に向かっている印象を受けます(ただ第2部第3四分については、ガンダムの話など脇道に逸れている)。ただ第2主成分までの累積寄与率が35%程度とあまり高くないので、もう少し下の主成分の流れも見てみることにします。第4主成分までにおける得点の推移と、単語の得点は次のようになっています。

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 第1主成分は、正方向が「萌え=ポルノ」という解釈、第2主成分やオタク文化そのものに関する軸と言うことができ、この主成分は全体としてマイナスの方向に向かっています。第2主成分は、正方向が恐らく東浩紀的な萌えの解釈に関するもの、負方向はオタク業界話みたいな感じになるでしょうか。この主成分は右往左往している感じです。第3主成分は正方向がゲーム関係になるでしょうか? 負方向はオタク文化にかんするものということになるでしょう。これも若干右往左往しています。そして第4主成分は正方向はサブカルチャー的なもの、負方向は感情に関する解釈ということになるでしょうか。こちらはほぼ一貫して正の方向に向かっています。

 ただ同書の分析で明らかにしたかったのは、話者4人(各部では3人ですが)の立ち位置の違いです。まず対応分析によって見てみます。四分と話者を対応分析によって布置した結果が次のものです。

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 とりあえず、第4主成分まではこんな感じに解釈することができるでしょうか?

 第1主成分:正…サブカルチャー 負:セクシュアリティ

 第2主成分:正…萌え文化批判? 負:話者自身の感情

 第3主成分:正…萌え文化のポルノ的解釈 負:話者自身の感情

 第4主成分:正…オタク文化 負:業界話

  それぞれの主成分の流れを折れ線グラフに表してみます。

第1主成分…

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第2主成分…

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第3主成分…

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第4主成分…

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 これを見ると、第1主成分は更科氏、第2主成分は海猫沢氏、第3主成分は高橋氏を他と分かつ主成分として見ることができそうです。こうして見ると、あるところでこの4者の立ち位置は違うと言うことになりそうです。ちなみに第4主成分は4者がほぼ重なっていますが、第8主成分までだいたいこんな感じでした。

 次に、単語の使われ方によって差が生じているかを見てみます。分析する単語は、出現数23以上の単語102単語で、これを多次元尺度構成法によってプロットし5つのカテゴリーに分けます。

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 これを元に次のようなコーディングを作成しました。

*カテゴリー1
オタク | 自分 | マンガ | アニメ | 映画 | 世界 | 話 | 好き | 嫌 | 笑 | 中原 | 日本 | 今 | 昔 | 思う | 言う | 分かる | 見る | 行く | 買う | 観る | 面白い | 多い | 全然 | する | ある | なる | いる | やる | できる | しれる | ない | そう | 人
*カテゴリー2
エロ | ポルノ | 時代 | 女の子 | キャラクター | 部分 | ヤンキー | 迫害 | ピュア | 全部 | 萌える | 出る | 違う | 読む | 殺す | 描く | いう | まあ | よく | もっと | 男 | 本
*カテゴリー3
人間 | モテ | 現実 | オナニー | セックス | 差別 | ダメ | 問題 | 考える | 書く | 本当に | つて | いい | すごい | どう | まったく | なんで | 女
*カテゴリー4
偏差 | 感じ | 社会 | エロゲー | 業界 | バカ | 趣味 | 普通 | 絶対 | 持つ | 出来る | 入る | あと | なぜ | 逆 | 国
*カテゴリー5
ガン | ダム | 文化 | 本当 | 興味 | 作品 | 一番 | 知る | 作る | 悪い | 良い | やっぱり | そんなに

  まず話者ごとの違いを見てみます。

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 これについては、違いが割とはっきりと現れたかと思います。海猫沢・更科氏はカテゴリー2,4の、中原・高橋氏はカテゴリー3の単語を多く使っている傾向にあります。これを見ると、中原・高橋氏の「嫌オタク」の理由は、主にセクシュアリティに関するところにあるのではないかと思われます。

 また四分ごとの使われ方の変遷も見てみましょう。

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 こちらではあまり特徴的な変化が現れなかった感じです。

 以上から、中原・高橋氏の「嫌オタク流」とは、主にセクシュアリティ方面の違和感とみなしていいかと思います。しかし読んでいて感じたのは、中原・高橋氏も海猫沢・更科氏も、東浩紀本田透などのオタク論をベースにオタクを物語っており、その正しさについては検証されないまま所与のものとして扱われている点です。どちらにしてもその立論の証拠は乏しく、無理のある分析、擁護によって歪められている感じです。とはいえこの2者のオタク論は、当時(それこそ「はてな」みたいな)オタク論壇でもてはやされていた経緯があるので、悩ましく感じてしまいます。

 

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