後藤和智事務所OffLine サークルブログ

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【ツイート転載】『文藝春秋』2015年8月号特集「戦後70年 崩壊する神話」のメディア論的意義について(H27.7.13)

というわけで今発売中の『文藝春秋』の特集「戦後70年 崩壊する神話」のレビューです。はっきり言って、まさに現代劣化言説の博物館と言っていい感じでした。あとテーマの選び方のバランス悪すぎ、例えば野球な んて4本くらいあったのにサッカーとか水泳とかゴルフとかテニスとかは一編もなし。理系分野も滅茶苦茶貧弱で、しかもほとんどが小出裕章近藤誠といった 問題点が数多く指摘されているものか「ものづくり」系ばかりであり、研究のあり方とかは一編もなし。教育関係とか複数編あるけどもっともっと貧弱で、全部 「~だと思う」の積み重ねだとか「権威」の無条件な肯定とかばかり。政治関係もほとんど同工異曲の「権威」肯定話。ほとんどが「何らかの〈権威〉が失われ た」というストーリーによって成り立っている。しかし今必要なのはその「権威」が何によって成立していたかという背景に関する分析ではないのだろうか。

こ の特集に通底しているものは、恐らく特定の社会階層、社会集団が「ある」と何となくふわーっと考えていた「権威」への憧憬であり、「崩壊する神話」という のはその「権威」が疑われることへの恐怖なのだと思う。そしてここにこそ、後期近代的な我が国のメディアのあり方を見ることができる。それは「他者」を否 定することにより自らのあり方、足元を確認することである。『天狗組のメディアの世界を覗く旅』や『「劣化言説の時代」のメディアと論客』でも述べたけ ど、我が国の今のメディアにおいては、他者の「劣化」を言い立てるその行為にこそ、不安定化したアイデンティティに対して「癒やし」を与えるというもので ある。劣化言説の果たしている役割とは、まさに他者をバッシングすることにより自らの立ち位置を再確認させることに他ならない。そういう現代のメディアの 役割を再確認させてくれることにこそ、この特集の存在意義があるのだと思います。

ついでに、韓国とか中国とかを 「劣化」した存在として叩くような記事もまた、「あいつらは自分たちとは違う」ということを読み手に認識させることによって不安定化したアイデンティティ に対して「癒やし」を与えるという点ではこの手の日本社会劣化言説と全く同じ役割を持っている。の『文春』の特集も、そして近隣諸国叩きも、ともすればあ る種の憎悪扇動(ヘイトスピーチ)も、読み手にはある種のエンターテインメントとして消費されているのだろう。しかしそれは他者への憎悪と排除を煽るとい う点では等しく〈右傾エンタメ〉として指弾されるべきではないか。何回でも言い続けるけど、艦これとか刀剣乱舞とかを「右傾エンタメ」と言っているのは本 当に素人の所業。他者の〈劣化〉を言い立てる言説にこそ真の〈右傾エンタメ〉がある。

学術ファンとして。この特集には本当に「学術」がありません。研究論文からの引用、統計データは皆無。故にその手の議論を期待する人は読まない方がいいです。むしろこの特集をメディアの歴史に位置づけてこそ「学術」の本領ではないかと。

野 球ファンとして。巨人だ長嶋だとかばかりこの特集は注目していますが、例えば近年の野球におけるデータの導入、パ・リーグの(実力的にもビジネス的にも) 躍進、大リーグでの選手の活躍、そしてWBCなど、野球ひとつ採り上げてもいいところもいっぱいあると思うのに、そこをなぜ採り上げない!