後藤和智事務所OffLine サークルブログ

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【テキストマイニング】ほぼ週刊若者論テキストマイニング 第10回:深澤真紀『草食男子世代』

転載元:

ch.nicovideo.jp

(第9回は欠番とします)

2016年、明けましておめでとうございます。今年も私及び弊サークル「後藤和智事務所OffLine」をよろしくお願いいたします。

…はい、2015年はこの連載どころか、ニコニコチャンネルも1回も更新しませんでした!2014年年末にはテキストマイニング方面を強化していく方針でいたのですが、昨年出せたテキストマイニングの同人誌は『世代論メディアを解体する』(現在COMIC ZINにて委託中です。詳しくは告知欄で)だけという体たらくでした。正直に述べると、まず第9回で分析しようとした書籍の結果があまりにもビビッドすぎて実りのないものであったことと、2014年末から精神的に参っていて2015年春まで引きずってしまっていたこと、そして2015年春から私事で忙しくなってしまったこと(それでも即売会への参加や同人誌の製作は続けましたが)などから、こちらの更新が止まってしまいました。久しぶりにテキストマイニングをやろうとして『世代論メディアを解体する』を書くときに、KH Coderの使い方をほとんど忘れてしまっていたのは衝撃的でした。

本年からは、できる限りこちらの連載も続けていこうかと思います。「ほぼ週刊」とありますが、だいたい隔週~5週3回くらい(週0.5~0.6回くらい)のペースで更新していければと思います。

さて、本年の新春初分析の儀は(というかこの文章も本来であれば1月1日に書き上げるつもりでした)、2006~2007年に日経BP社のウェブサイトで連載され、「草食(系)男子」という言葉の火付け役となった書籍『平成男子図鑑――リスペクト男子としらふ男子』(日経BP社、2007年)、その文庫化である、深澤真紀『草食男子世代―平成男子図鑑』(光文社知恵の森文庫、2009年)です。この本については、かつて私は「bk1」の書評(現在は「honto」に掲載されています)で次のように書きました。

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 俗流若者論スタディーズVol.7 ~なるほど、これは確かに「平成男子」図鑑だ~

はっきり言おう。本書は、「平成男子」なる1種類の男子しか示されていない。


え、何でそうなるの?と驚かれる方もいるかもしれない。しかし、あたしにしてみれば、これこそが本書の本質なんだ。


なるほど、確かに本書にはたくさんの「男子」が提示されているね。目次だけ見ても、「リスペクト男子」「オカン男子」「草食男子」「ツンデレ男子」(おいおい…)などなど、瞠目しちゃいそうだ。


あたしが先ほどのように判断した理由は、以下の二点。第一に、各種「男子」の「生態」(笑)についての描写。曰く、それぞれの「男子」には共通点があり、それは上の世代ほどにこだわらない、ということや、コミュニケーションに淡白であることなど。第二に、こんな「男子」が生まれた背景についての描写だが、まあ見てくれ。


「10代でバブルがはじけて、経済的に自立ができなくなり、地元に残るようになった」(「リスペクト男子」p.13要約)、《団塊の世代には「ニューファミリー」や「友達親子」という言葉がありましたが、これはまさにオカン男子の産まれた背景といえるでしょう》(「オカン男子」p.61)、《チェック男子が生まれた背景には、そもそも情報やソースに飢えていないと言うことに尽きる》(「チェック男子」p.96)


このような記述を見るたび、あたしはあまりの既視感にしばし笑い転げてしまった。まあ、代表的なのを提示しても、こんなもん。要するに、さんざん語りつくされた世代論をまたぞろ蒸し返しているに過ぎないのさ。しかもこの著者、おもしろいことに、どこが各種「男子」の分かれ目になるか、ということについては全く提示していない。だからこんな「分析」が成り立ってしまう。曰く、「mixi男子はリスペクト男子でもある」「少年ジャンプ男子はリセット男子でもある」と。特に後者については、何兆歩譲っても理解できなかった。


要するにこういうことだ。著者にとって、著者が観察の対象にしている「男子」は、それが何「男子」であるかは本質的な問題ではない。つまり、先ほど述べた、何事にも対してそれほどの関心を持たず、他方では自分の半径数メートルのことには極めて関心が高く、コミュニケーションは淡白である、そんな「平成男子」の急増こそが、本書で問題にされていることだ。そう考えれば、本書にちりばめられた既視感にも説明が付く。そんな「男子」って本当に増えたの?という(少なくとも、社会学的には極めて重要な)疑問は二の次だが。


従って本書は、「今時の若者が理解できない!」と憤慨している人が読んで溜飲を下げる、という類のものであり、それ以上でもそれ以下でもない。だが、あたしが本書を読んで、笑えるけど笑えないのは、本書のような笑いの種でしかない議論ばかりではなく、(少なくとも論者と版元は)「真剣」に若年層の「格差」について語っている本にも、本書とほぼ同類のメンタリティが流れていることだ。要するに、若年層においては小さい頃から経済的に満たされており、その「格差」とは所詮は小さな「差異」みたいなものに過ぎない、ということ。こういう認識こそ、あたしらが壊さなければならないものだし、また「格差」論を「貧困」論に昇華させることを阻んでいるものなんだけど。
http://honto.jp/netstore/pd-book_02798914.html

 



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今回の分析のために本書を再読したのですが、基本的な感想としてはこれと変わっていません。ただ一点強調していないのは、本書を読むと、決して若い世代を叩いているか擁護しているかというのは「本質的な問題ではない」ということです。本書は、どちらかと言えば若い世代を擁護しています(これは2010年代の若者論に概ねよく見られる傾向です)。しかし同書で用いられているロジックとは、基本的に1990年代~2000年代の若年層叩きで使われていたロジックをただ単にネガティブからポジティブに転換してものに過ぎず、むしろ既存の劣化言説を当然の如く底にしているという点でより悪質と言えます。

文中で繰り返される「男子は~」、そして「おやじ(世代)は~」という物言いにも、客観的な根拠はまったくありません。ただただ使い古されてきた偏見を繰り返しているだけです。今回再読したときにも、私は何回も「その根拠はどこだ!」と突っ込んでいます。このように、若者論というものにおいては、偏見を疑うよりも、再生産することの方が受けるのでしょう。このような傾向は若者叩き、擁護問わず頻繁に見られます。このような「偏見の再生産」こそが、若者論の最大の問題点だということを、もっと知ってほしいと思います。

さてここからは分析に入っていきましょう。形態素解析ソフトには「MeCab」を使い、また分析には「KH Coder」を使いました。これは今までと同様です。ただ辞書については、今までは前回からの辞書に継ぎ足す手法をとっておりましたが、今回からはいったんリセットし、毎回作成する方針としました。なお、今回登録した単語は「ガンダム」「mixi」のみです。そのうち分析に使用する単語は、全体の占有率が15%となる、出現数23以上の単語158語を使用することとしました(名詞の分類がいろいろとおかしいところがありますが、それは仕様なのでご了承ください)。

表1 使用する単語と出現数

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まずは多次元尺度構成法を用いて、単語を分類してみます。ただ対象の単語158語全部だと結果が見えづらくなるので、名詞に限定して分析を行いました(集計基準は段落、数値はJaccard係数)。

図1 単語の多次元尺度構成法

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「男子」などの世代論に関する単語は左の方に配置されていますが、その対となるものは何になるのかというといまいち特徴がつかめません。縦軸でもどのような特徴があるのか、よくわかりませんでした。

さて本書の最大の特徴(そして最大の突っ込みどころ)ですが、最近の若い男性をいくつかの「〇〇男子」に分類して(ついでに言うとこの手の分類手法は近年のマーケティング系若者論の走りと言ってもいいでしょう)いますが、本書では対応分析を用いてその特徴を布置していきます。

表2 寄与率

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表3 節(「~男子」)ごとの得点(第5主成分まで)

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表4 単語ごとの得点(第5主成分まで)

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ここでは、単語の得点を見ることによって深澤のラベリングの特徴を見ていくことにしましょう。まず第1主成分ですが、正の方向の得点が大きいのは「少年ジャンプ」「連載」「ガンダム」などといった漫画・アニメ作品に関する単語で、逆に負の方向の傾向が強いのは「パパ」「地元」「教育」といった生育環境に関する単語となりました。第2主成分は、マイナスの方向は第1主成分とあまり変わらないのですが(ただ「ガンダム」などがこちらではマイナスになっている)、プラスの方向に大きいのは「チェック」「日記」「mixi」といったメディアに関するものが多く見られております。このあたりは現在の青少年言説に支配的になっている思い込み(ステレオタイプ)が如実に表れていると言うことができそうです。第3主成分はよくわかりませんでした…。

表5 参考:節ごとの関連語(段落ごとのJaccard係数、集計対象は全自立語)

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もう一つ分析を行ってみます。本書では「男子は~」「彼らは~」という物言いが頻出しますが、それにどのような単語が関連づけられているかを、共起ネットワークを用いて示してみます。その結果がこちらになります。

図2 「男子」の関連語(集計単位は段落、集計対象は全自立語、Jaccard係数上位60)

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図3 「彼ら」の関連語(同上)

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最後になりますが、これは多くの若者論で見られる表現であり、本書もまた例外ではないのですが、「~かもしれない」という推測に基づく分析を行っているとされる文末表現が頻出しておりました。試しにコーディングを用いて(コーディング「かも+しれる」)集計したところ、段落単位で4.58%、小見出し単位(なお、この小見出しには本書では分析しなかった、倉田真由美及び大宮冬洋との対談も含まれる)ではなんと33.80%で使用されていました。これが高い値なのかどうかは他と比較していないため何とも言えませんが…。


参考文献
樋口耕一『社会調査のための計量テキスト分析――内容分析の継承と発展をめざして』ナカニシヤ出版、2014年