後藤和智事務所OffLine サークルブログ

同人サークル「後藤和智事務所OffLine」のサークル情報に関するブログです。旧ブログはこちら。> http://ameblo.jp/kazutomogoto/

【秋コレ7サークルペーパー】大塚英志、東浩紀『リアルのゆくえ』分析

秋コレは初出展となります、後藤和智です。弊サークルは2007年の冬コミにおいて、当初は商業活動のプロモーション目的に設立されたサークルで、当初の活動ジャンルは評論の中でも若者論でした。そこから2008年から統計学の解説書を出すようになり、2011年には東方に進出して、さらに2013年からは評論分野にテキストマイニングを本格的に取り入れるようになり、現在はテキストマイニングを用いた評論本と、東方を中心とした学術解説書の刊行という2つの軸を持って活動しているサークルです。

今回「秋葉原」オンリーということで、当初はオタク関係の本をいくつか集めてテキストマイニングしようとしていたのですが、残念ながらタスクがいろいろとたまっていたこともあり今回の新刊の刊行は見送ることとしました。代わりと言ってはなんですが、本来であれば新刊の補論として収録予定だった、オタク関係の対談本の分析をペーパーとして配布することでご了承ください。

今回分析するのは、東浩紀大塚英志の2人の対談をいくつか収録した本である『リアルのゆくえ――おたく/オタクはどう生きるか』(講談社現代新書、2008年)です。この本では、2001年に『小説TRIPPER』(朝日新聞社。現在は朝日新聞出版)、2002年に『新現実』(角川書店)、2007年に『新現実』(太田出版)、そして2008年に本書のための取り下ろしで行われた対談をそれぞれ扱っております。今回は時系列での変化を中心に、この2人の対談の論点がどのように変化していったかを見ていくこととします(なお、本書にはまえがきとあとがきが存在し、まえがきは対談形式だが、あとがきは東による文章となっており、大塚の文章は大塚によって取り下げられたらしいです)。

とは言っても、本書の対談は、読む限りにおいては、サブタイトルの「おたく/オタクはどう生きるか」というものはあまり主題ではなくて、むしろ大塚が東の態度を問い詰めるというものになっています。その点では正しいサブタイトルは「東浩紀は論客としてどう生きるか」というのが正しいのかもしれません(とはいえ、先般のアメリカの大統領選やもう少し前の東京都知事選のように、いまの東は権力への欲望を隠さない、他人を見下すだけの存在になってしまったことを考えると、ここで大塚から言われていた警句がどれくらい活かされているのか疑問なのですが……。あと本書は東のみならず大塚も結構酷かったりして、OCR作業はかなり苦痛でした)。ただ議論の内容はいろいろと変わっているので、その点を見ていくことができればいいこととしましょう(なお、形態素分析にはMeCabを使い、辞書は「浩紀」「コゲどんぼ」(人名/名前)「おたく」「オタク」(一般名詞)「デ・ジ・キャラット」「エヴァンゲリオン」「エヴァ」(固有名詞)を単語として登録した。また「東 」「大塚 」を強制抽出単語として話者の設定に使い、分析の際には排除した。これにより占有率が20%となる、出現数14以上の自立語428単語を分析に用いている)。

まず、対応分析で、それぞれの章の論点と、その論点がどのように変化していったかを見ていきましょう。それぞれの章を文書として見なしたときの、文書ごとの対応分析の結果が表1及び図1となります。そして表2にそれぞれの主成分における単語の得点を掲載します。それぞれの主成分における単語を見てみると、第1主成分の正方向は『動物化するポストモダン』(講談社現代新書、2001年)に関する東の議論に関する内容、負方向は主に若年層の労働などに関する社会学であり、第2主成分は正の方向は世代論、負の方向はアニメやセキュリティといった「東浩紀の議論」に関する方向性ということになります。どちらの方向性にも東の議論が関わっており、このことから本書は東の議論に対する大塚による質問や問いかけと言うことができるでしょう。

表1

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図1

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この結果から、「はじめに」と「あとがき」を除いた本編だけを抽出したものが図2となります。これを見ると、2001年の議論では第1象限、2002年は第4象限、2007年は第3象限、2008年は第2象限という推移が見て取れます。第1主成分の推移で見ると、2001,2002年の議論は『動物化するポストモダン』における議論を巡って行われた対談で、2007,2008年は彼らが「ニート論壇」と呼ぶ、主に若い世代の労働に関して台頭した論客についての議論と呼ぶことができるでしょう。このあたりは分析しなくても分かるようなものです。他方で、一方第2主成分で見ると、2001,2008年の議論は世代論、若者論全体に関するものが主体で、2002,2007年は東の議論をめぐって行われたものと言うことができそうです。特に、2002年の議論は、東が『動物化するポストモダン』などで提起した若者の消費行動や社会の問題に対して大塚が東に質問しているというものと見なして良さそうです。つまり本書は、東の議論が軸になっていると言えるでしょう。

図2

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続いて、多次元尺度構成法を用いて単語を分類し、それぞれの単語が章や話者においてどれくらいの頻度で使われているかを見ていくことにしましょう。分析に用いたのは、出現数45以上の102の自立語です。5つのカテゴリーを設定するため、1カテゴリーあたりの平均の単語数が20個程度となるように設定しました。多次元尺度構成法による単語のプロットを図3、これによる単語の分類を表3に示します。カテゴリー1の単語は全体で使用頻度が多いので特に意味づけは行いませんが、それ以外の単語を見る限りでは、「国家・システム」(カテゴリー2)「批評」(カテゴリー3)「時代」(カテゴリー4)「『動物化するポストモダン』」(カテゴリー5)というように分けることができそうです。章、話者、話者×章の使用頻度を表4に示します。

表3

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図3

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表4

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章ごとの使用頻度の推移を見てみましょう。章ごとの、文単位での使用頻度をバブルプロットで示したのが図4です。2001年の段階ではカテゴリー1の単語の割合が多かったのですがどんどん減っていって、代わりにカテゴリー2,3,4の単語の割合が増えていくことが見て取れます。このことから、2001年の対談は『動物化するポストモダン』、及びそこで提起された問題を中心に語っていたもので、それが章を下って行くにつれてどんどん後景に移っていくという推移が見て取れます。この点においては、本書は『動物化するポストモダン』を読んでいなくても、同書で提起されたものがどういうもので、その議論がどのように推移していくかというのが分かるという構成になっています。

図4

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それでは話者での違いは現れているのでしょうか。話者(東はあとがきを含む)ごとの使用率を見たのが図5になります。これを見ると、カテゴリー5は両者ほぼ等しいですが、カテゴリー2,3,4という、社会や時代に関する単語については大塚の使用頻度が高いことが示されております。また、大塚はカテゴリー2,3,4の使用頻度が増えていくのに対して、東はそれほど変わっていません。このことから、大塚は東の議論について現実の社会問題を絡めて論じているのに対して、東は大塚からの疑問に対して自分の議論を説明することに終始しているという印象を受けます。

図5

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ただ、これは分析に現れていないところなのですが、一読した限りにおいては、大塚も東も、現代の若者論(特に、かつて私が『おまえが若者を語るな!』(角川Oneテーマ21)で論じたとおり、東の『動物化するポストモダン』はただの世代論に過ぎないと見なしていいと思います)によって作られた社会や若者の認識を疑わずそのまま受け入れていること、さらに2007年以降の議論については、労働や教育に関する(「批評」ではない)社会学の知識が明らかに欠落しているという問題点があります。2008年の議論では、彼らが「ニート論壇」と呼ぶものは東の作った下地に下の世代の論客が入ってきたものであると大塚が発言しているところがありますが、下地を作ったのはむしろ本田由紀などの教育社会学や労働に関する社会学と言った方が正しいでしょう。彼らは自分たちがいつまでも議論の中心にいるという幻想から抜け出せていないように思えます。そして、大塚は分かりませんが、少なくとも東は、自分こそが社会を全体的に見ることができるという幻想、というよりは妄想に未だにしがみついている様子です……(『中央公論』2017年1月号の論壇特集など)。

なお、『動物化するポストモダン』の間違いについては、山川賢一が既に論じているので、こちらもご参照ください。
「山川賢一の『動ポモのどこがクソなのか大会』」https://togetter.com/li/533391

付録

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