【ツイート転載】若者への差別を支えてきた「若者文化論」(2017.06.25)
の続き。
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なぜ一部のポピュラー社会学の支持者がいとも簡単に若者を差別するのかというと、若者論の世界にはいつ頃からか「通常の若者論は上澄みのエリートしか見ていない」という思い込みがあったというのが大きい。それに90年代以降の評論の「いかに本質を語っているか」ゲームの風潮が相俟って、一部の若者論の世界では〈莫迦な若者〉をポピュラー社会学の文脈で語れる人間が「知の最先端」としてもてはやされる風潮ができてしまった。その言説がいかに差別的なものであっても、ポピュラー社会学の消費者にとってはそのような知的優越感を満たしてくれることの方が重要だから、そういう言説が「批評」の世界でもてはやされる。
2000年代終わり~現在の「ヤンキー」論はそういった差別構造に支えられている。そのあたりの反省がポピュラー社会学の消費者の間でなされないまま、現在に至っているため、ああいった言説が今でもまかり通る。
ポピュラー社会学の消費者にとっては、「自分は世の中の本質が見えている」ことだけが重要であり、その背景に潜む差別意識を批判されると「せっかく誰々が考える機会を与えてくれたのに邪魔するな」ということになる。「世の中を考えている自分」がかわいいだけの人間が世の中を語らないで欲しい。
「評論の読者」がほめそやす「多様性」というのは、自分が着飾ることができる言説・思想がたくさんあるということであって、彼らが一番恐れているのは「王様は裸だ」という指摘。というか「評論の読者」ってこの10年でまったく変わっていない。以前『おまえが若者を語るな!』を出したときも「お前の若者論を語れ」と言われたものだ。若者論の非科学性を批判する言説への対応ではないだろう。
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若者の階層化をめぐる一部左派の言説について。
若い世代の「格差」「階層化」は、比較的早く左派に認知されていました。1990年代終わり~2000年代初めにかけてそれらを扱った新書などがブームになっていたのですが、一部左派はこれをどのように捉えたか。
香山リカの『ぷちナショナリズム症候群』や荷宮和子の『声に出して読めないネット掲示板』のように、それは「階層化によって自分たちとは違う考え方や心性を持った若者が戦後社会を破壊する」というユースフォビアの言説で用いられたのです。このような「若者文化論」が、一部左派の劣化言説を支えてきました。さらに、玄田有史らの『ニート』のように、若者論においては労働経済的な視点よりも若者の心性やそれを生み出した消費社会、情報化社会を指摘する言説の方が受けがよかった。宮本みち子氏などの言説がそれほど広まらなかった背景には、このような「若者文化論」がある。若い世代をめぐる問題を語る言説は、このような「若者文化論」に長い間引っ張られてきたわけです。
左派(そして一部の若手右派も)の若者叩きを支えてきたのがこの「若者文化論」です。いま求められているのは、若者に対する差別の一部を支えてきた「若者文化論」の相対化なのです。
【ツイート転載】いまだ残る「底辺」への差別的なまなざし(2017.06.24)
これは素晴らしい若者論。後藤和智氏とか是非読むべき。
— 社虫太郎 (@kabutoyama_taro) 2017年6月24日
はてなの中高年は今井絵理子の発言を理解できない https://t.co/Lz4OmoXrzN
甲山太郎=甲虫太郎=社虫太郎氏に「素晴らしい若者論」として勧められたこの記事ですが、はっきり言ってどこが素晴らしい記事なのか分かりませんでした。ただの若者バッシングじゃないですか。
確かに元となった今井絵理子氏の「批判なき政治・選挙」という発言に危機感を持っているのは分かります。しかしこの記事のように、そのように「危ない発言をする若者」(今井氏は33歳ですから、確かにいまのネット論壇の主要な消費者層においては「若者」でしょう)が1人いることからそれが「いまの若者」のスタンダードだとされたらたまりません。第一、この記事には今井氏の発言を支持する若者の発言が一切引用されていない。ただ推測だけで若者、それも低学歴の若者のスタンダードだと決めつけられている。その差別構造に気付かないでいられるのは片腹痛い。
そのような差別意識は《学力・教養はかなりの底辺》《ああいう人は年齢のわりに若者文化に親和的》《底辺コミュニティやガキ向けコミュニティをある程度覗いていれば今の若者や子供達が「批判」という言葉をなんか変な風に使ってるのに気付けたはず》などという文言に現れていますが、どれも根拠はありません。というか一部の「ヤンキー」論が言う「ヤンキー文化=いまの「常民」の文化」をトレースしているだけではないでしょうか。
このような「底辺の若者」論がなぜ批判されるべきかというと、このような「底辺の若者」に対してはどのようなバッシングをしてもいいという意識が、いまのリベラル方面のネット言説に渦巻いているからです。2008年の『ケータイ小説的。』(速水健朗、原書房)などに端を発する現代の「ヤンキー」論は、いままでオタクばかり語ってきた「批評」、新たに「ヤンキー」をフロンティアにしたものなのですが、それらの言説は若者及び地方都市・郊外文化への差別的なまなざしの上で成り立っている三浦展の「ファスト風土」論を受け継いでおり、オタクの自意識、被害者意識を満たすものにしかなりませんでした。そして冒頭で採り上げた記事はそのような若者論の系譜の延長上にあるものに過ぎません。
このような「批評」が今でものさばっていると言うことは、『現代ニッポン論壇事情』で述べたリベラル系の若者論の論客の現状にも合致します。劣化言説の時代においては「若者」を語れば思想の最前線にいられるという思い込みが蔓延しており、それがリベラル派においても若者バッシングを蔓延させる結果となりました。いま求められているのはそのような「批評」に対する総括です。いまの「論壇を振り返る」的な書籍や雑誌の特集に抜けているのは、このような若者論の系譜の検討です。いまこそ我が国の差別意識を根底において支えてきた若者論にメスを入れるべきときなのです。
ちなみに、甲山太郎という社会学者がいかに不誠実な人間であるかについては、下記の記事を。
あと、こちらのモーメントもお願いします。
追記
結局ネットで「若者の理解者」を自称しているネット論客って、「若者」自分の枠組みに勝手に当てはめて自意識を満たしているだけだよね。そしてそれでよしとしてきたのが2000年代以降の「批評」であり、若者論の社会学。で、いまはそれに対する反省と振り返りが若い学者の間で起こっているけど、
— 後藤和智@『現代ニッポン論壇事情』発売中 (@kazugoto) 2017年6月24日
「批評」を支えてきた学者はいまだに「批評」が有効だと思っているのかな。もうそれを真に受けているのは一部の中高年オタクくらいでしかないよ。キモくて金のないなんちゃら論と同じように。
— 後藤和智@『現代ニッポン論壇事情』発売中 (@kazugoto) 2017年6月24日
なんで「批評」の消費者の皆様は、自分の気に入らない若者が一名出てきたら「これが若者のスタンダードだ」って思えるの?
— 後藤和智@『現代ニッポン論壇事情』発売中 (@kazugoto) 2017年6月24日
結局社会の分断を測っているのは、ああいう「意識の高い」層なんだよ。自分たちは物事の本質が見えているということだけを売りにして、その言論が依って立つ科学的根拠や、社会的責任についてまったく無頓着であるという。
— 後藤和智@『現代ニッポン論壇事情』発売中 (@kazugoto) 2017年6月24日
こういう「批評」のコミュニケーションの基礎をつくった宮台真司あたりは盛大に批判されるべきだろう。
— 後藤和智@『現代ニッポン論壇事情』発売中 (@kazugoto) 2017年6月24日
【さらに追記 2017.06.24】
なるほど。若い世代のある層の目には、政権批判をしている人間が「駅員に怒鳴り散らしてるおっさん」だとか、「自分でカラダ動かしてるわけでもないのに町内会のイベントに文句つけてばっかりいるジジイ」とおんなじように見えているのかもしれないですね。 https://t.co/XFzoZZISXC
— 小田嶋隆 (@tako_ashi) 2017年6月24日
つまり、ヤンキー道徳からすると「仲間内の和を乱すヤツ」が最悪なわけで、とすると「仲間内」の範囲を「日本」なり「日本人」ぐらいなところに設定すると、政権批判をする人間は「反体制派」というよりは、まっすぐに「反日」「売国」「裏切り者」「敵国の工作員」てなことになるのだろうな。
— 小田嶋隆 (@tako_ashi) 2017年6月24日
とりあえず、自分にとって気に入らない政党の、比較的若い議員による発言が若い世代のある層の心性を代表していると決めつけるのは、それ自体が若い世代への差別的な視線の発露であり、控えた方がいいのではないかと思います。
小田嶋氏がこのあとの発言で「ヤンキー」論を引き合いに出しているとおり、「ヤンキー」論というのは「自分とは違う」層を勝手に(統計などを用いず)自分たちの「批評」的枠組みに恣意的に当てはめて、「自分たちはマイナーなんだ」という被害者意識に浸る以上のものではないのです。
詳しくは私の同人誌『「ヤンキー」論の奇妙な位相』(Kindle: http://amzn.to/2tZtb9F )を読んで欲しいのですが、そういった恣意性と、マーケティング化した若者論の危険性に気付かないままあのような議論をしてしまうのは問題なのです。
そもそも「若者が自分たちの気に入らない政治的流れに(意識的/無意識的に)荷担している」という言説は、2000年代初め頃からの香山リカなどにも見られましたが、結局それは左派による若者バッシングにしかなりませんでした。その愚を繰り返したくなければ、「若者」を引き合いに出すのはやめる。
【追記 2017.06.25】
続編書きました。
5月14日はこいしの日【テキストマイニング】
注
この論考は「東方Project」の二次創作を兼ねています。登場人物の口調や性格などが原作と異なる可能性がありますのでご注意ください。
古明地こいし(以下、こいし):コミティア、例大祭お疲れ様でしたー!そして今日は5月14日、こいしの日だよ!みんながこいしのことをお祝いしてくれる日なんだよ!
古明地さとり(以下、さとり):「5月14日」が「514」で「こいし」というふうに読めるから、主にpixiv上で有志が「こいしの日」にしてお祝いしたのが始まりのようね。今年もいろいろな人がこいしのイラストを上げているわ。
こいし:でも、この記事の書き手さんって、イラストとか小説とかじゃなくて評論の人でしょ?確か去年は「第12回東方Project人気投票」でのこいしのコメントを分析したけど、今回もそんな企画なの?
さとり:今回は、こいしが登場してから最初の人気投票である「第6回東方シリーズ人気投票」から、最新の2017年に行われた「第13回東方Project人気投票」までのこいしのコメントを分析して、こいしの支持のされ方の変化を見ていくこととするわ。この記事の筆者は、2017年4月2日に行われた「第11回東方名華祭/幻想郷フォーラム2017」で、『東方人気投票コメント統計』という、「第13回東方Project人気投票」のコメントを分析した同人誌を出しているのだけど、そのときの分析がキャラクター横断的な分析だったから、今回はこいしに限定した縦断的な分析を行うことになるわね。
とらのあな:http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/51/98/040030519871.html
メロンブックスDL:
さとり:分析の対象とした人気投票とコメントの数は次の通りね。特に2015年の人気投票は、霊夢を抑えてこいしが一位になったことから衝撃を受けた人も多いんじゃないかしら。
第6回東方シリーズ人気投票(2009年):433件
第7回東方シリーズ人気投票(2010年):913件
第8回東方シリーズ人気投票(2011年):1,315件
第9回東方シリーズ人気投票(2012年):1,424件
「第5回東方ニコ童祭」での人気投票(2013年):801件
第10回東方シリーズ人気投票(2014年):1,363件
第11回東方Project人気投票(2015年):1,502件
第12回東方Project人気投票(2015年):1,870件
第13回東方Project人気投票(2015年):1,372件
さとり:分析にはフリーのテキストマイニングソフト「KH Coder」を使用し、形態素解析にはフリーソフト「MeCab」を、辞書は『東方人気投票コメント統計』で使用したものをさらに加工したものを使用しているわ。
こいし:どういう分析をやったの?
さとり:まずは対応分析からね。全体での占有率が20%となる、出現数53以上の自立語137語を分析対象とし、分析を行ったわ。第1主成分と第2主成分のプロットはこんな感じね。
こいし:この図を見ると、こいしが初めて投票の対象になった2009年から2012年までと、2013・2014年、2015年以降がそれぞれ固まってる感じになるのかな。
さとり:2013年はこいしが「東方心綺楼」でプレイアブルキャラクターとして登場して、そこから人気が急上昇した年ね。2012年の人気投票で14位だったものが、参考記録ながらもこの年の人気投票で2位になり、2014年に行われた本家での人気投票でも3位になって、それ以降は3位以内に入っているわけだけど、大まかな流れで言うと、2012年までは中位安定期、2013・14年は人気の上昇期、それ以降は高位安定期と言うことができるんじゃないかしら。対応分析の年ごとの得点も見てみましょうか。
さとり:見るべき主成分は、累積寄与率が70%程度になる第3主成分までで良さそうね。これを見ると、第1主成分は2012年までマイナスでその後プラスに転じ、第2主成分は2013・14年に大きくマイナスに転じてその後は戻っていく感じ、そして第3主成分は2015年に大きくプラスに、2016年で大きくマイナスになるという変化が見られるわね。
こいし:投票の中身はどういう風に変わったんだろ?
さとり:そのために、まずは対応分析の単語ごとの得点を見てみましょう。
さとり:2012年以前と2013年以降を分かつ第1主成分は、まず負の方向に着目すると、こいしと私の初登場の作品である「東方地霊殿」でのこいしが弾幕を放つときのポーズを形容するときに使われる「グリコ」や、その他「弾幕」「帽子」「能力」などといった弾幕や設定に関する言及が多いわね。そして正のほうを見ると、「あざとい」「天使」「かわいい」などといった、こいしのかわいさに関する感情を示す単語が多くなる傾向があるみたいね。
こいし:2013年に発売された心綺楼から、こいしのことをかわいいって見てくれる人が多くなったっていうことなのかな。
さとり:その傾向は、2013年~14年の人気の拡大期に大きくマイナスに転じた第2主成分からも見られるわね。心綺楼やそれを基にした二次創作などでこいしの魅力が周知されたということになるのかしら。2016年に大きく負に転じた第3主成分は、「前回」「世界」「今回」という単語が見られるわね。前回1位になったから、今回も1位にしようというファンの心理が働いたのかしら。
こいし:他に何か支持のされかたの変化を測ってたりするの?
さとり:他の分析結果なども見て、いくつか気になった単語を元にコーディングを作成してみたわ。
*こいし
こいし
*かわいい
かわいい
*かわいい以外の評価
惚れる | 萌える | 萌え | あざとい
*愛でる
好き | すき | 天使 | 嫁
*ゲームでの描写
ZUN+絵 | ポーズ | 仕草 | しぐさ
*弾幕
弾幕 | スペル | スペカ
*設定
設定 | 心+読む | 目+閉ざす | 目+閉じる | 能力
*重い背景
泣ける | 辛い | つらい | 悲しい
*容姿
髪 | ZUN+帽 | 帽子 | 服 | スカート
*ペロペロ系
ペロペロ | ペロッ | ちゅっちゅ
*こしこし
こしこし
*無意識だから仕方ない
seq(無意識-仕方)
*さとり
さとり | さとりん | さとこい | 古明地+姉妹
*フランドール
フラン | フランドール | こいフラ
*こころ
こころ | こいここ
さとり:これらのコーディングに該当するコメントの数と割合は次の通りよ。
こいし:こいしが20位くらいだった2012年までは、弾幕とか設定とかに関する言及が多くて、それ以降は人気が一般化していってる感じになるのかな?
さとり:割合で見るとそんな感じだけど、絶対数を見ると、ただかわいいだけでなく、設定や容姿、または重い背景などについても一定の支持があるように見えるわね。いずれにしても2008年に登場した、東方Projectの歴史で言うとどちらかと言えば後発になるこいしが、なぜここまで人気を得たのかについて、いろいろと参考になるデータが得られたわね。
付録:各年の人気投票の共起ネットワーク(単語:全体で10以上のコメントに使われているもの)
第6回(2009年)
第7回(2010年)
第8回(2011年)
第9回(2012年)
ニコ童祭(2013年)
第10回(2014年)
第11回(2015年)
第12回(2016年)
第13回(2017年)
【リリース】後藤和智事務所OffLine 5月6・7日のイベント参加情報+商業新刊告知
【イベント参加情報】
「V」ブロック22a「後藤和智事務所OffLine」
お品書き
「G」ブロック56ab「後藤和智事務所OffLine」
お品書き
【評論系新刊】
「コミティア120」新刊『月刊テキストマイニングレポートVol.1 計量テキスト分析を用いた文芸評論の可能性1:池井戸潤「半沢直樹」シリーズ』
「コミティア119」新刊『続・統計学で解き明かす成人の日社説の変遷:計量テキスト分析で読み解く〈若者〉へのまなざし――平成日本若者論史14』
「コミックマーケット91」既刊『間違いだらけの論客選び――2010年代「日本社会論」の計量テキスト分析』
【東方Project系新刊】
「第14回博麗神社例大祭」新刊『鍵山雛の損害保険数学基礎講座』
後藤和智さん(@kazugoto)の新刊「鍵山雛の損害保険数学基礎講座」の表紙描かせて頂きました♪
— suo@例大祭 け-44ab (@suo117) 2017年5月1日
G-56で頒布されるそうです! pic.twitter.com/GGad1kEpeB
メロンブックス:https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=218486
とらのあな:http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/53/38/040030533852.html
「第11回東方名華祭/幻想郷フォーラム2017」新刊『東方人気投票コメント統計――計量テキスト分析で見る「愛され方」の研究』
メロンブックス:https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=211328
とらのあな:http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/51/98/040030519871.html
【商業新刊告知】
2017年6月、イースト・プレス(イースト新書)より商業新刊『現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史』(北田暁大氏、栗原裕一郎氏との共著)が刊行されます。
【コミティア120新刊】月刊テキストマイニングレポートVol.1
【例大祭14新刊】鍵山雛の損害保険数学基礎講座
【書誌データ】
書名:鍵山雛の損害保険数学基礎講座
発行日:2017(平成29)年5月7日(第14回博麗神社例大祭)
著者:後藤和智(後藤和智事務所OffLine http://www45.atwiki.jp/kazugoto/)
表紙:suo(すおーずこーひー https://www.pixiv.net/member.php?id=422596)
サイズ:A5
ページ数:48ページ
価格:即売会…800円/書店委託…1,000円(税抜)
通販取扱:メロンブックス https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=218486
とらのあな http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/53/38/040030533852.html
国立国会図書館登録情報:納本予定
サンプル:
電子書籍:メロンブックスDL
備考:本書は同人サークル「上海アリス幻樂団」の作品「東方Project」シリーズの二次創作作品となります。そのためコミティアなどの二次創作作品の頒布が禁止されている即売会では頒布いたしません。
登場人物:鍵山雛、河城にとり、霧雨魔理沙、秋穣子
【目次】
0.1 まえがき
第1章 損害保険とは
1.1 保険とは
1.2 損害保険とは
1.3 損害保険の商品
1.3.1 家計分野
1.3.2 企業分野
1.4 商品の詳細
1.4.1 火災保険
1.4.2 自動車保険
1.4.3 傷害保険
1.4.4 その他
第2章 クレームのモデル
2.1 はじめに
2.2 クレームの頻度のモデル
2.2.1 はじめに
2.2.2 クレーム頻度のモデル
2.2.3 クレーム額のモデル
2.2.4 クレーム総額のモデル
第3章 信頼性理論
3.1 はじめに
3.2 有限変動信頼性理論
3.3 ビュールマン・モデル
第4章 危険理論
4.1 はじめに
4.2 サープラス過程
4.3 短期間での破産確率
4.4 長期的な破産確率
第5章 保険料算出の基礎
5.1 はじめに
5.2 純保険料と営業保険料
5.3 純保険料法
5.4 損害率法
5.5 再保険
第6章 おわりに
6.1 文献
6.2 おわりに
6.3 あとがき
【名華祭11サークルペーパー】『宮台真司interviews』分析【テキストマイニング】
名華祭は3回目の出展となります、後藤和智です。そして「幻想郷フォーラム」第4回開催おめでとうございます。私は第2回(2015年)を除いて毎回出展していますが、2014年の初開催時は、出展申し込みをしつつも東方の「情報・評論」オンリーなんて誰が来るのかと正直思っていましたが、蓋を開けてみれば大盛況という。そして2015年には残念ながら出展できませんましたが、2016年に出展したときには口頭発表部門も追加されて、盛り上がりも増しているという……。まだまだ東方の同人には可能性があると感じました。
さて今回のサークルペーパーは、東方とは関係ないのですが、宮台真司に1994年~2004年に行われたインタビューをまとめた本『宮台真司interviews』の分析を行いたいと思います。私は(それこそ今回の新刊がそうであるように)テキストマイニングにはまっているのですが、テキストマイニングを用いて現代の言論、評論のあり方を明らかにすることを続けていこうと思っているので、今後とも末永いお付き合いをよろしくお願いいたします――というのはさておき、早速分析に入っていきたいと思います(解析に使ったのはカスタマイズしていないMeCabに、「酒鬼薔薇聖斗」「酒鬼薔薇」を強制抽出単語としてKH Coder側で登録)。
『宮台真司interviews』には合計64本のインタビューや、他のライターによる聞き書きが収録されていますが(表1)、特に多いのは1998年のものです。1998年というのは、宮台が「脱社会的存在」という概念を言い出す頃のものであり、相次いで報道されていた「理解できない」少年犯罪(実際には統計上では少年による凶悪犯罪は減少傾向にあるか、または増加していても検挙方針の転換で増加しているように見えているだけ)に対する対応・解説に追われていたということが考えられます。もう一つは、宮台自身が主張する転向です。詳しくは宮台の『この世からきれいに消えたい。』(藤井誠二との共著、朝日文庫)を読んで欲しいのですが、1999年か2000年に、宮台の熱心な読者が宮台の言説を真に受けて自殺して、それを契機に宮台が「世直しモード」から「サブカルチャーモード」に言説を転換させたと言われております(というか、宮台が言っています)。
そのような変化は見られるのでしょうか。ここではクラスター分析と対応分析を用いて見ていきます。クラスター分析を用いて5つのクラスターに分けたところ、1998年まではクラスター1の文章が見られますが、1999年以降はクラスター1がなく、代わりにクラスター4の文章が見られるようになりました。それではそれらのクラスターの中身はなんなのかというと、クラスター1は対応分析で第1,3主成分が負で、第2主成分が正に振れていました。他方、クラスター4は、第2,3主成分が負に振れています。単語の得点を見ると、特に違いが見られた第2主成分においては、正の方向は子育てや酒鬼薔薇聖斗事件、正の方向には政治や運動と名付けることができそうです。
さらに年カテゴリごとの変化を見ると、1990年代と2000年代で大きく異なっているのは第1主成分で、1990年代は負だったのが2000年代には正になっています。こちらの第1主成分は、メディア規制関係のほか、子育てに関するものが多いですが、正の方向には、「天皇」「大衆」「匂い」などといった宮台社会学で頻繁に使われる単語が多く見られます。
こう見ると、宮台の言う「世直しモードからサブカルチャーモードへ」という変化とは真逆のものが見えます。実際の宮台の言説は、少なくとも『宮台真司interviews』に収録されているインタビューや聞き書きを分析する限りにおいては、当初は少年犯罪などに対する具体的なものだったのが、「原天皇制」や社会のあり方といった、むしろ抽象的なものに向かっていくという様が見られます。これは私が『間違いだらけの論客選び』という同人誌で指摘した、セラピー的な言説の傾向を、切り離すと言うよりはむしろ獲得していったということです。
また、頻出する単語上位122個(出現数77以上)を多次元尺度構成法によって6つのカテゴリーに分類し、それぞれの単語が使われている文の割合を集計したのが表7,8になります。集計からわかるのは、1990代はカテゴリー2,4の単語が多く、2000年代はカテゴリー3の単語が多いということです。教育やジェンダーに関する基本的な単語が並ぶカテゴリー2,4に対して、カテゴリー3は宮台的な「社会システム理論」において使われる単語になっています。
このことから、宮台の言う1990年代から2000年代における言説の転換は事実ですが、それは「世直しからサブカルチャーへ」というよりは、より抽象的な、そしてより一般の社会科学からはかけ離れた方向への変化と言うことができるかと思います。まあそういう社会学こそがサブカルチャーであると言い切ってしまえばそれまでなのですが、これは自分の言説が理解できる層へのアプローチの変化であり、要するに自閉であり、そしてセラピー的側面の獲得でしかないわけで、社会「科学」とは真逆の方向に向かっており、これは非常の危うい変化であると言えます。
宮台は2014年の都知事選のときに過激な物言いで反原発左翼の支持を取り付けようとして失敗し、最近はネット上の反フェミニズム言説に過激な物言いで支持を取り付けようとしているように見えますが、いずれにせよ2005年の段階で既に自閉し、セラピー的になってしまった宮台に期待するのは危険です。幸い、社会学の方面では宮台社会学に対する見直しが進んでいるようですが、「批評」方面ではまだその影響力が衰えたとは言えない状況です。「批評」の側が早く宮台的なものから脱却しないと、「批評」が科学を志向することは不可能ではないかと思います。