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月刊テキストマイニングレポートVol.2(2017年6月29日号)

月刊テキストマイニングレポートVol.2(2017年6月29日号)

新型うつ病」のポリティクス1.5――新聞は「現代型/新型うつ病」をどう報じたか?

 

 先月から始まった新シリーズ「月間テキストマイニングレポート」ですが、あまりいいデータが集まらず(というか私が書籍のテキストデータ化を怠ったのが根本原因なのですが)今回はこのようなブログ記事となってしまったことをお許しください。さて、今回採り上げるのは、2000年代終わりから若い世代に増えている「新しいタイプのうつ病」をめぐる言説です。

 旧来のうつ病が、真面目な中高年がかかるものだというイメージだったのに対し、主に若い世代がかかり、非常に他罰的で、また「仕事を離れれば軽快するため、休職中に海外旅行に行ったりする」ということが報告され、このような若者の「病気」は病気ではない、というバッシングが少なからず起こりました。これについては私の同人誌『「新型うつ病」のポリティクス』にまとめているのでよろしければご覧ください(『「劣化言説の時代」のメディアと論客』にも全文収録しています――夏コミにて普及版刊行予定)。

 

 今回は将来的にその続編を書くに当たっての予備調査として、新聞がこの「若者の新しいタイプのうつ病」についてどのように報じたかと言うことをテキストマイニングを用いて見ていこうかと思います。

 ちなみにメディア全体で見ると、「現代型/新型うつ病」の「ブーム」は2回来ていて、1回目が2007~8年頃、香山リカが『仕事中だけ《うつ病》になる人たち――30代うつ、甘えと自己愛の心理分析』(講談社、2007年)や、『「私はうつ」と言いたがる人たち』(PHP新書、2008年)のように、主に香山リカによってバッシングが煽られた時期、2回目がNHKの「NHKスペシャル」で「職場を襲う「新型うつ」」が放送されたときと考えられます。

 「現代型うつ病」「新型うつ病」を報じた記事について、@niftyの新聞記事検索サービスを使用し、2000年代以降について検索してみたところ、代表的なものとして次の記事を分析することにしました(検索ワードは「現代 AND うつ病」など。選択基準は500字以上)。

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 こうして見ると、「現代型/新型うつ病」について最初に詳しく報じられたのは2006年8月22日から27日にかけての朝日新聞の「患者を生きる」であることがわかります。しかしこれらの記事を読んでみると、「他罰的」「仕事のときだけ発症する」「薬が効かない」などといった特徴は描かれているものの、決してバッシングされているというわけではありません。

 朝日新聞というと、連載企画の「ニッポン人脈期」の中でも「100万人のうつ」というシリーズがあり、その中で第1階のタイトルが「一丁上がり、増殖する病」というバッシングを煽るようなものになっています。

 

 まじめな人がなりやすく、なると自分を責める。こんなうつ病のイメージが変わろうとしている。「新型うつ病」の増殖を著書で紹介した大阪の精神科医片田珠美(かただたまみ)(50)が典型例を教えてくれた。

 一流企業に勤める20代後半の女性。黒のパンツスーツで診察室に現れた。しんどそうだった。問いかけると一転、冗舌になる。

 「異動を言い渡されたが、私に合わない」「上司は自分を理解してくれない」

 15分ほど一方的にしゃべり続ける。従来型のうつ病では、こういうことはあまりない。ただ、気分の落ち込みといった症状はあったから、とりあえず「うつ病」の診断書を出し、休職してもらった。

 6カ月の休職期間が終わろうとする頃、女性が診察を受けにきた。恋人と海外旅行に行ってきたという。そして、「うつから回復するには配置転換が必要と診断書に書いてほしい」。片田が断ると、怒り出した。「患者のために、できるだけのことをするのが医者でしょ」

 女性はそれまでほとんど挫折した経験がなかった。片田は言う。「『もっとできるはず』という自己愛が強く、うまくいかないと他人のせいにしたがる。この女性は、どちらかというと自己愛性人格障害に近い」

  「典型例」と書かれていますが、それがどこまで「典型」なのか、というのは、片田をはじめとする「新型うつ病」論客は説明しません――なぜなら医学的に定義されたものではないのですから。

 ただこのシリーズについても、バッシングを煽っているのはこの最初の片田の部分だけだったりします。というより、朝日新聞は、総じて「新型うつ病」論に批判的です。医学的に認められたものではない、単純に「甘え」と排除するのはおかしい、ということは論説記事で何回か主張しています。

 日本うつ病学会は、現時点ではっきりした分類や定義はできず、根拠のある治療法はない、という立場だ。最近まとめた「うつ病の治療指針」でも「マスコミ用語」「医学的知見の裏打ちはない」と記した。

 精神科医の間でも意見が分かれる。ただ、軽いうつ状態の患者が増えているのは事実で、本当に苦しんでいる人を、ひとくくりに「怠けているだけ」と批判してしまうのは問題だ。

 「(ニュースがわからん!)「新型うつ病」、最近よく聞くのう」2012年8月21日付朝日新聞、文は月舘彩子

  それどころか産経新聞でさえ、(全体としての記事数もそもそも少ないのですが)ここで採り上げる記事では表立ってバッシングしているわけではなく、偏見に基づく記事もありますが、それは『職場を襲う「新型うつ」』(文藝春秋、2013年)の宣伝記事くらいなのです(そのため除外した)。さらにそれどころか香山リカでさえ、毎日新聞の連載でたびたび「新型うつ病」を採り上げたことがありますが、表立ってバッシングを煽っているわけではないのは驚きました。

 つまり、「現代型/新型うつ病」は新聞で積極的に報じられた類のものとは言えないのです。中心となっている言説は、テレビ、週刊誌、そして新書を中心とする書籍なのです。この点は踏まえておく必要があるでしょう。

 とはいえこれで分析する意義が消えたわけではなく、新聞の記事の論説を一つの基準として分析してみようかと思います。使用したのはカスタマイズしていないMeCabです。最初にKH Coderを用いて、時期ごとに区分を決めてそれを元に対応分析を行いました。区分としたのは、対象の「患者を生きる」が連載された2006年(1期)、第1次ブームの2009~2011年(2期)、第2次ブームの2012年以降です(3期)。プロットと数値は次の通りです(単語の出現数10以上)。

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 第1主成分の負方向が、2006年の当該「患者を生きる」において特徴的な単語と言え、それは主に治療法に関する単語であると言えます。また第2期と第3期の特徴は第2主成分に現れており、負方向が第2期、正方向が第3期ですが、第2期においては概ね労働問題として新聞では語られていたのに対し、第3期では依存症の問題として語られている傾向が強いと言えます。

 次にこれらの記事における「現代型/新型うつ病」、そしてその当事者である若者はどのように描写されているのかを、N-gramを用いて見てみることにしました。N=10のN-gramを作成すると、次のようなものが観測されました(観測数は全て1)。

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 これらは概ね「現代型/新型うつ病」に関するイメージを表していると思われます。

 

 参考資料――井出草平

ides.hatenablog.com

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 ※次回は『ヤンキー虚空に吠える――義家弘介・文部科学副大臣の計量テキスト分析』をお送りします。「みちのくコミティア3 創作旅行」での新刊を予定しております。